2015年9月29日火曜日

黙っていられる僕らは大人

皆の前でうずくまれるヤツ程
強い人間はいないのよ」
爪を噛みながらあなたは言って
血の滲む指も好きになる
弱い人間? あなたは

これは愛の歌だ
伝えることってそんなに必要?
黙っていられる僕らは大人
いろんな音をふたりで聴こう

少し曲がった君の背中が
少し曲がった君の心が
こんなにも愛しく思うのは
なんて言うとまた勘違いされて
でもそんな風にからかい合って

これは愛の歌だ
変わってくってそんなに必要?
黙っていられる僕らは大人
鳴らさなくてもいい間合い
いろんな音をふたりで聴こう


2015年9月23日水曜日

ノスタルジア

いつだって本当に愛しいモノは
触れもしない氷の中に
わざわざ凍ってしまうまで
見ていたくせに泣くあそび

いつだって本当に欲しいモノは
触れもしない氷の中を
そこにある筈と酔いながら
追いかけ続けているようす

喪わずに失われず
だけどそれは
触れること撫ぜられることも
ノスタルジア

魔法のない世界なのに
刻まれていく皺の呪い
閉じ込めた時間の中の
あなたを思う自分を想う

喪わずに失われず
だけどそれは
触れること撫ぜられることも
ノスタルジア

魔法のない世界なのに
たったひとつ解けない呪文
ノスタルジア

終わりのないレコードが回る


2015年6月20日土曜日

君と四分三十三秒

うっ血した時間ばかりが過ぎていく
やり場のない手は
ずっと膝に置かれている
幾度もなぞった同じ場所
血がたまっていく

夕暮れた街に名前をつけて
歩けない路地を増やしていく
遠くへ来たと思っていたのに
手を取り合わずには歩けないなんて

黙って二人 生きた日は
吹き飛ばされた時間たち
きっとそうね、思い出の
ディテールはいつも後追いで

懐かしい夢に変わるまで
どうして?ばかりが増えていく
応えはしない過去だから
やり場のない手は
ずっと膝に置かれている

黙って一人 生きる日は
いろんな音を聞けるはず
なのに何故
かつての胸の高鳴りと
あなたの言葉だけが響く



2015年6月5日金曜日

尿 (蒸発 2)

君は尿
わたしを早く透き通らせて
通り過ぎていく湿り気が
わたしの中を動いていく
虹は咲いてくれるかな
心に咲いてくれるかな
君は尿
たくさん水を飲もう

君は尿
わたしを透き通らせて
いつか聞いたよ
身体はリセットされていく
何年か経てばそうなると
わたしの中を過ぎていく
憶えたままでいるのにね
君は尿
たくさん水を飲もう

死ねば白か
透明じゃないのか
なら生きて
もう少し減らそう

たくさん水を飲もう
そして行ってしまえ
尿になって


スモークス

傷つけ合いながら
生きたいひとに
やっと出逢えた気がするわ

もっと近付いて曇らせて早く
そうして二人
磨りガラスね

空気を抜いて、そう、奥まで

もっと近付いて曇らせて早く
そうして二人
磨りガラスね

見えなくなるまで
あなたを刻む





2015年4月22日水曜日

ずっとひとりでいるつもり

自分を減らそうと
ふった制汗剤が少し
マスクについて香ってきた
懐かしい川のそばを
歩いた時にもかいだ匂い

終えてから気付くのは
モノや時間だけじゃない
誰かの匂いがこうしてまた
抜けた場所を気付かせる

暗中模索に君がいた
二人で歩いた分と同じだけ
匂いがずっとついてくる

ずっとひとりでいるつもり
クエスチョンで言ってみて

一緒に生きれる人じゃなかった
歩いていける、人じゃなかった
ただ、それだけのこと

置かれたままの保湿クリーム
湯上がりに少し試してみる
寝起きの誰かの匂いがした

暗中模索に君がいた
二人で歩いた分と同じだけ
湿ったままで歩いている
匂いだけがついてくる

ずっとひとりでいるつもり
クエスチョンで言ってみて



2015年4月14日火曜日

ボーンラバーズ

君の骨が好き
キスをしよう
あばらとあばら
こすれ合わそう

君の骨が好き
愛と呼ばれる
音を鳴らして
こすれ合わそう

心はどこにあるのでしょう
その素敵な乳房の
先には骨があるだけ
まとわりついた肉と
骨があるだけ

心はどこにあるのでしょう
どうすればそこに触れるの
どうすれば声が聴こえるの

君の骨が好き


2015年2月27日金曜日

完璧な人生(anser to job)

突き刺さるその棘が
ただひとりの証よと褒めて
「完璧な人生は
痛みを伴うものなのよ」
ねぇ、そう言って

愛はなくて構わないか
なにかを差し出さなければと
君の哲学は主張する
情熱で生きることが青春で
その日々は、もう終わった

わたしはとってもvacant
痛みにすごく敏感で
それが使命と目を臥せて
わたしは、本を読み続ける
一度のキスにも適わないのに

突き刺さるその棘は
ただひとりの証よと褒めて
「完璧な人生は
痛みを伴うものなのよ」
ねぇ、そう言って

神とふたりで歩くふり
「完璧な人生は
痛みを伴うものなのよ」
つぶやきながら歩いている


2015年1月31日土曜日

宝塚インター

数万年の約束のように
太陽を信じ切っている
「暮らし」を送れる人々は
ガスの元栓を戻したかたち
柔らかい目をしてこちらを見ている

宝塚の街が夜行バスの窓に映る
そうね、映画の様に映っている
まどろみの少し前
ふとした嘘を浮かべ ほほえむ

さようならも言えない二人
始まらなかった暮らしの話
あなたの住んだこの街の
他人でしかない光を見ている

夢の中では「僕」と呼ぶ
いまとは違う一人称の
それは懐かしい未来のわたし
到れもしない子供のくせに
大人のように遠い目をして

ねむりについて
はやく起きなよ
幾度か目を始めに帰る
眠らない街、
暮らせない街に帰りなさい

さようならも言えない二人
始まらなかった日々の記憶
あなたの住んだこの街が
ガスの元栓を戻したかたち
細めた目をしてこちらを見ている