2019年4月1日月曜日

価値の国

「ずっと光を探してきました」
そう言って彼は目を閉じる
机の上にはよく磨かれた
古い裸のナイフが一本

小さい頃は多分人より
地面と遊んでいたと思う
死んだ蛹を手のひらで
いつまでもずっと暖めた

捨ててきなさいと言われた猫の
目で見る世界は気まずくて
空があることも忘れてしまう
こんなに長く生きてきたのに
鼻で笑って終わりなんてな

「ずっと光を探してきました」
そう言って彼は目を閉じる
瞼の裏の顔を見た
ナイフに映った自分を見た

世界が平らになってから
数字ばかりの毎日です
二つに一つの点滅で
価値のない血にされていく

捨ててきなさいと言われた猫の
目で見る世界は気まずくて
歩けない昼が増えていく
本当は少し話したかった
どこの誰かと聞かれる前に

「ずっと光を愛してきました」
そう言って彼は目を開けた
ナイフは既にどこかへ消えて
初めて彼と目が合った





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