2012年6月29日金曜日

石拾い

石拾いになぞいかない
流れない川をずっと見ていた
何も持っては帰れない
旅を嫌いな理由はそれだ
恐いのは 失くすこと
忘れてしまうこと
だから何も拾えない

石拾いになぞいかない
俺は指なんて信じない
蚊の噛んだ 後を掻くのも
結局は爪のことだから
冷たくて固いもの
雨、耳、女、爪
半透明の固いもの
感覚のないその物体
恐ろしい物体
まるで小石の様に
指先に俺はそれを持って

石拾いになぞいかない
何も拾えやしないのだから
ただ、ずっと爪を見ている

2012年6月26日火曜日

猿の指

拙い俺の猿の指で
リュックサックを開けて閉め
ひもじさや 切なさや
やるせなさや 情けなさ
蜜柑をちゅうりり吸うている
ババアによく似た指をして
さりげなく野菜、食ってみたり
しょもしょもと口を動かせて
背中の丸さにおびえたり

拙い俺の猿の指で
痒くなる本 開いて閉じて
何を詰めて 何を嗅ぐの?
純粋動機の 奴らが見ている
人まね小猿 滑稽。滑稽。

拙い俺の猿の指で
歌やギターをあれやこれ
黄色くなった紙で一杯
しまえないから 出したまま
もらってくれよ 
タダでも駄目か

拙い猿の俺の指

2012年6月16日土曜日

お前の歌

知らぬ日本語
狂わせないで
弄するお前の好きな言葉は
夜明けと傷と、青い朝
袋に詰める
米、肉、カカオ、塩、バッテラ
ポテトチプスに指を練らして
のちのち帰る いつもの柱
算盤教室 カフェ 古書チェーン
理髪店の前にある、小池に泳ぐ金魚の尾びれ

茶色い暮らしを
こぼした様な
五線譜を歌と呼びながら
拭う口元
撫で付ける髭
くわえて鳴らすハーモニカ

羊皮紙大の暮らしの歌
お前の歌の最初の文句
「夜勤明け」



2012年6月7日木曜日

赤(滝沢亘に捧ぐ)

タライの中の世界に放つ
赤!赤!赤! 
ああ、なんて美しい 
命の色
それを身に纏い 
生まれた俺の
皮肉なワルツは
千代紙に終わる。  

雨が降ったか?
それで、濡れたか?  
まるで
取られた脂の様に
紙に広がる 
俺の老廃。
そして 
責められてまた責められて 
この世は責任ばかりだな 
生まれたことの代償に 
何度も 赤の利息を払う。
そしてまた
或る物、となる前の
生まれの儀式 
赤い儀式
注射器針に
溢れてそよぐ 
三千万の平熱の子ら

さぁ!俺を殺すか? 
穴を空けろ!早く、今!
そこに陰茎を流し込め
そして、生まれる
新しい赤
我関せずの 
まばたきに
流れる涙は羊水の 
心の海の味がした

2012年6月2日土曜日

くらげ(溢れていた日曜日)


なんだ日曜日か って 
気持ちよくまた寝てしまう
なんだ日曜日か って 
何回だって沈んでいける
隣りのおっさん 切れの悪いタンが絡む 品の無い咳も
どっかの鎖と 糞をそこらに 犬が鳴いてる喧しい声も
悪くはなくて むしろ眠れて
そんな日々があった気が
くらげみたいに半透明で
どこかすっとした毎日が 

溢れていた日曜日の大いなる気楽さ
俺はただ浮かんでいたのか お前の言う 飄々としたままで

なんだ日曜日か って 
気持ちよくまた寝てしまう
なんだ日曜日か って 
何をしようか。の無敵感
そんな日々があった気が
くらげみたいに半透明で
どこかすっとした毎日が 

溢れていた日曜日の大いなる気楽さ
俺はただ浮かんでいたのか お前の言う 飄々としたままで

「帰りたい」なんて歌ったら 
また やれやれを見なければ
それでも 唯唯 思ってしまう
あの日の空で浮かんでいたい
回る煙で曇る前 
布団の窓から見えていた
暖かいだけの空の中で